Wednesday, September 17, 2014

days/daze

香ばしい麺麭を焼くような文章が書きたい
手で轆轤を回すような文章が書きたい
木通の籠を編むような文章が書きたい
日がな機を織るような文章が書きたい
胡麻を炒って擂って木綿の布巾で絞った豆腐に和えるような文章が書きたい
静かに庖丁を研ぐような文章が書きたい
ほかほかと湯気の立つ白飯を炊くような文章が書きたい
藍で晒し木綿をあおあおと染めるような文章が書きたい
かさかさと音を立てる枯枝を集めて焚火をするような文章が書きたい

秋になった。

                                                    Strawberry Swing/Coldplay

Tuesday, September 16, 2014

tristesse

かなしみがやってくる瞬間は不意すぎる

つぎの一歩で

地面は急に硬さを失う

あ

あたらしい店ができた
家に帰ったら教えよう
とおもうとき


もちあげた腕の

力が失われる
もう使わないカップに指が触れたとき


ふりかえって

話しかけようとしたとき


テレビを見て笑っている声を

数えてしまったとき


もう

なにもない空間に向かって
話しかけたりしない

その声が


通じてない

のが

いつのころからか

はっきりわかるようになった
気がするもの


どこからも

見ていてはくれない
語りかけられることもない
まして
触れられることはない
わたしが

失ったのはかんぜんな事実でほんとうで

まったくまるっきり
こんりんざい
永遠にということは永遠に
失ったんだと

なんども納得しながらなんどもあたらしく思い出すたびに

あしもとから力が抜ける

この脱力のことでしょう

かなしみとは。


                     Hurt/Johnny Cash






Sunday, September 14, 2014

sneak a peek

電車の座席に並んで座ると
猫背の彼の横顔は
わたしの視線のななめ前にあった

わたしは座席にもたれ

気づかれないまま
思う存分彼の横顔を見られる
この状況が好きだった

上向きにカーブした長い睫毛

秀でた額から皮膚の薄い唇につづく完璧な鼻と顎の線
うまくできているなあと
神様の造形の腕前に感嘆しながら


こんなに長い年月がたっても

まだ夫の顔に見とれている妻というのは
あまりに気恥ずかしいから
見ないふりをする
でも
寝顔と
こうして
ななめ前の横顔を盗み見るひとときは
誰にも気づかれない
わたしの特権だった
手放したくない
特権だった



あのひとは


恋に落ちるべき横顔をしていた


              Black Is The Color/Cara Dillon


Thursday, September 11, 2014

the train stops in the middle of the desert

その列車は
なにもない砂漠を走りつづけ
「森」を前にして停止した

森は砂漠に囲まれている


わたしたちは列車を降りることはできないので

森に面した窓辺に並んで
森を見た

彼は「農作業」を終えて森と砂漠の境界線までくると

そこにあるベンチに腰を下ろして
静かに煙草を吸った
もう長いこと吸ったこともないはずの煙草を

彼は見慣れない長いトレンチコートを着ていて

それは長身で細身の身体に似合って
少し若く見え
いやに端正なのが悲しかった

「飛行機」で飛んできたきれいな女性が

彼に近寄り
「昔とくべつな関係だった二人」に特有の
気楽なようすで煙草をねだり
ごく自然にベンチの隣に座った

彼は手近にあったバケツのようなものを

灰皿にして二人の前に置き
けだるいような
あきらめたような
でもおだやかなような様子で
女性と話していた

会えてよかったわ

会えるんだね
会えないんだと思ってた
と彼女は言い

また会えるのかな?

と言いながら立ち上がった

「飛行機」は毎日来るからね

会えるんじゃないの?
と安請け合いをするところがとても彼らしかった

列車を降りられないわたしたちは

その会話を聞くしかないのだった




何日かして

もう使うこともないパスポートを開けると
挟んであった若い写真が出てきた

彼はとても痩せていて

見慣れないトレンチコートを着ていた




それ

天国だったんだね
と娘は言った

天国って神様の作物を育てるのらしいよ




そうなのか

じゃあきっと
列車は「夢」なのだ


「飛行機」は

死んだ人を運んでくるんだ


でもそれ以来

わたしは列車に乗って
砂漠に行っていない



                                             Becalmed/Eno




Tuesday, September 9, 2014

wind blows through the keyhole

「カケガエノナイヒト」
をなくした人間は
胸にひとりひとり
ちがうかたちの穴があくのを知ってた?

穴はいつも
新鮮な切り傷のように
からだじゅうの神経を覚醒させ
だらだらと血を流し続け
痛みで気が遠くなる

その穴は一生ふさがらない

穴はからだを貫通していて
そこを風も吹きぬける

でも、穴をふさいではだめ

その穴は
天国で
「カケガエノナイヒト」
と会ったとき
わたしを識別してもらうための
鍵穴だから

彼は鍵をもっている
鍵をもって待っている

わたしの
風の吹きぬける胸の穴に
彼の鍵がぴったりささったら
穴がすきまなくふさがれたら
彼はわかってくれる
それがわたしだと

だからもうすこし
すきま風の吹きぬける胸を抱いて
生きていく


                             O Pastor/Madredeus









tiring/ring the bell

it's tiring to be hated.

it gets even more tiring when you never know the reason why. 



                                Girl who got away/Dido

caress/careless

右足の裏だけが冷えている。
というわけでしょっちゅう右足の裏を手で擦っている。

手は見知らぬ他人の体温のように温かい
から
擦られた足の裏は瞬間温もったようになるが
手を離すと
その瞬間にまた

そこに氷が埋めこまれているように


その氷が風を呼びこむように


冷たくなるのだ。

体の中で

右足の裏の土踏まずの一点だけが
いつも冷えている。


                   Let the right one in/Morrissey

Monday, September 8, 2014

never been so lonely

こんなにさみしかったことはない。
のかもしれないしあるいは
もといたところにかえってきた
だけなのかもしれない。

中秋の名月は雨と雨雲のむこう。

どの字を漢字にするかひらがなにするかの権限が与えられた私は
世界の王かもしれない。

                       Princess of China/Coldplay