その列車は
なにもない砂漠を走りつづけ
「森」を前にして停止した
森は砂漠に囲まれている
わたしたちは列車を降りることはできないので
森に面した窓辺に並んで
森を見た
彼は「農作業」を終えて森と砂漠の境界線までくると
そこにあるベンチに腰を下ろして
静かに煙草を吸った
もう長いこと吸ったこともないはずの煙草を
彼は見慣れない長いトレンチコートを着ていて
それは長身で細身の身体に似合って
少し若く見え
いやに端正なのが悲しかった
「飛行機」で飛んできたきれいな女性が
彼に近寄り
「昔とくべつな関係だった二人」に特有の
気楽なようすで煙草をねだり
ごく自然にベンチの隣に座った
彼は手近にあったバケツのようなものを
灰皿にして二人の前に置き
けだるいような
あきらめたような
でもおだやかなような様子で
女性と話していた
会えてよかったわ
会えるんだね
会えないんだと思ってた
と彼女は言い
また会えるのかな?
と言いながら立ち上がった
「飛行機」は毎日来るからね
会えるんじゃないの?
と安請け合いをするところがとても彼らしかった
列車を降りられないわたしたちは
その会話を聞くしかないのだった
何日かして
もう使うこともないパスポートを開けると
挟んであった若い写真が出てきた
彼はとても痩せていて
見慣れないトレンチコートを着ていた
それ
天国だったんだね
と娘は言った
天国って神様の作物を育てるのらしいよ
そうなのか
じゃあきっと
列車は「夢」なのだ
「飛行機」は
死んだ人を運んでくるんだ
でもそれ以来
わたしは列車に乗って
砂漠に行っていない
Becalmed/Eno